第12章 2度目の夜。
「…………」
スマホの画面をぼんやりと眺める。暗闇のせいかやけに眩しく感じる。示す時間は午前3時32分。
眠る前の記憶を辿る。あれ、わたしリビングで寝ちゃったんじゃなかったっけ。暗闇の中でもわかる、これはわたしのベッド。頭に手をやると髪の毛も乾いている。
轟くんが運んでくれたのかな。そう思ったところでようやく轟くんのことを思い出す。本当は来客用の布団を出すはずだったのだが、このぽんこつ女が寝ている間に轟くんはどうしたのだろう。
スマホの薄らあかりを頼りにリビングに足を運ぶ。
「…轟くん、」
寝起きの掠れた声で轟くんを呼ぶ。
ソファーで、タオルもかけずに寝てしまっている。いくら夏といえどクーラーが効いてるこの部屋で、こんな薄着で寝てしまっては風邪を引きかねない。わたしは自分の部屋からタオルケットを持ち出し、轟くんの身体に掛けてあげる。
轟くんの寝顔を見るのは、これで2回目だ。前は寝顔どころじゃなかったけれど。
床に腰を落とし、無防備な寝顔を眺める。よく見なくてもかっこいいけど良く見てもかっこいい。ふと、轟くんの前髪を掬うように撫でる。いつもは綺麗にわかれている紅白の髪が混ざりあって、なんだか悪いことしてるみたいだ。
次は、痛々しい火傷痕にそっと触れる。痛かっただろうな、でもそれ以上に、心が痛かったんだと思う。わたしが治癒の個性だったら、この怪我ごと彼の悲しみを慰めてあげられたのだろうか。
「…ばかみたい、わたし…」
そんなもしもの話をしても仕方ないことはわかっている。現に轟くんはもうお母さんと仲直りしたって言ってたし、わたしだけが助けられてばかりだ。
きっとこのエゴ丸出しの思考は、轟くんの特別になりたい、という感情の表れなのだろう。自分勝手な自分が嫌になる。
「…なかったことして、なんて、うそ。ほんとは、わたし……」