第12章 2度目の夜。
「轟くん、次お風呂どうぞ。」
いつ貰ったのかも覚えてない、そもそも貰ったかどうかも覚えてないお兄ちゃんのTシャツに袖を通す。下にはお気に入りのゆるゆるハーフパンツ。こんなことなら可愛いパジャマでも買っておけばよかった、なんて少しだけ公開しつつリビングのソファに座る轟くんに話しかける。
「バスタオル、わたしの使ってね。シャンプーも好きなの使っていいから。」
「…ああ、ありがとな。」
自分のバスタオルを轟くんに渡す。洗濯したてとは言え、わたしのバスタオルで良かっただろうか。嫌と言われても新品のバスタオルなんて無いのだけれど。
リビングに戻り、ソファーに横たわる。さっきまで轟くんが座っていた位置が暖かい。
お風呂場の方からシャワーの音が聞こえる。静かだけど、人の気配がする空間が昔から好きだった。図書館、テスト中の教室、修学旅行の夜、誰かがひそひそ話す声。そういう空間は決まって眠くなる。
勉強してないや、せめて髪の毛は乾かさなきゃ、寝癖が酷いことになっちゃう。そう思っていても体が重くて動かない。
重くなる瞼に抵抗できず、眠りに落ちる。今度は昔のことは思い出さず、代わりに思い出したのはわたしに触れる優しい轟くんの手だった。