第12章 2度目の夜。
「そうだ、お風呂!轟くん先に入っていいよ。」
「いや、家主より先に入るわけには…」
轟くんのお姉さんが作ったという手土産を夕食に平らげ、轟くんにお風呂を勧める。誰も居ない家に2人きりなんて、と思ったが、そんな空気にもすこしずつ慣れ始める。
変なところで律儀だなあ、なんて思いながら食べ終えた食器を片付け始めると、轟くんがとことこと後を付いてくる。
「…手伝う」
「い、いいよこれくらい。轟くんお客さんなんだから座ってて」
「客じゃねえ、…用心棒。」
「用心棒?」
聞き慣れない響きにふふ、とつい笑いが零れる。轟くんは何がおかしいと言わんばかりに眉を顰めた。
轟くんはわたしの後ろでそわそわと周りを見渡している。他人の家でやることが無いというのは案外落ち着かなかったりするものだ。それはわたしだって経験したことがある。
「じゃあ…洗い物、お願いしてもいい?わたし先にお風呂入ってくるね。」
「…ああ。」
ぱ、とこちらに向き直りお皿を洗い始める。仕事を与えられ喜ぶ子供みたいだと少し頬が緩む。わたしも小さい頃はお手伝いしたくてしたくてたまらない時期があったな。
時計を見ればもうすぐ21時。早くお風呂入らなきゃ、と浴室へ向かう。
湯船に浸かりながら昨日のことを思い出す。なかったことにして欲しい、とは言ったくせに、一番なかったことに出来てないのはわたしだ。ずっと頭の中でぐるぐると考える。
湯船に口を付けてぶくぶくと大きくため息を付く。
昨日の、轟くんの悲しそうな目を思い出す。わたしが出した答えは、間違っていたのだろうか。