第12章 2度目の夜。
「いきなり押しかけちまって、悪かった。」
「う、ううん。むしろごめんね、うちのお母さんが…。」
冷えた麦茶を轟くんに出す。昨日の今日で、少し気まずい雰囲気が流れて落ち着かない。ソファーを轟くんに譲り、わたしは床に腰を落とす。流石に隣に座る勇気は、今のわたしには無かった。
「…お母さん、なんて?」
「……よかったら、3日間だけ蒼井のこと見ててくれないかって。」
わたしはお留守番もままならない幼児か。というかなんで轟くんなんだろう。お母さんのお節介は実に的外れだ。
3日間も轟くんと一緒、なんて、緊張でどうにかなってしまいそう。あれ、わたしこんなんじゃなかったよな。轟くんと居る時は、嬉しくて楽しかったはずなのに。
「ご、ごめんね轟くん、全然大丈夫だから、帰っても大丈夫だよ…?」
「…いや、俺も昨日のことでお前のこと気になってたから、蒼井が良かったら、お前のそばにいさせてほしい」
「…ッと、轟くん……」
不覚にも心臓が跳ねる。轟くんの真っ直ぐな瞳がわたしを捕らえて離さない。
本当は怖かった。心が不安定になるとすぐに使えなくなってしまう個性なんか頼りにならない、お母さんに連絡したってすぐに駆けつけてくれるわけじゃない。
あんな人に、また襲われたらと思うと、本当は怖くて仕方なかったんだ。
「…大丈夫だから、そんな顔すんな。」
「……わたし今、どんな顔してる?」
その問いに答えが返ってくることはなく、轟くんはくしゃりとわたしの頭を撫でる。いつもみたいに優しい手つきじゃなくて、不安を全部吹き飛ばしてしまうような暖かい手だ。
轟くんといると、心臓がいくつあっても足りないくらいドキドキする。でも、さっきまで抱えていた不安も恐怖も全部、拭い去ってくれるのもいつも轟くんだった。