第12章 2度目の夜。
「出張?」
「うん。3日間だけね。」
次の日、学校から帰るなりバタバタと荷物をまとめる母が目に入る。
わたしの母は大学の教授で個性の研究をしているのだが、多忙らしくこうして度々わたしは家で1人になる。
「昨日の件もあったし、アンタを3日も家で1人にするのは不安だけど…お兄ちゃん電話に出ないのよね。」
「別に一人で平気だよ…」
お兄ちゃん。高校を出るなり家を出て、全く帰ってこないわたしの兄だ。兄が今どこで何をしているのかは全く知らないが、母は知っているのだろうか。
母が携帯の連絡先欄を見ながら唸る。
わたしを心配してくれているのは有難いが、こうも赤ん坊のように扱われては少し情けなくなる。
「ほら、もう行かないと新幹線間に合わないんじゃないの」
「ああっとそうだった…いい?何かあったらすぐ電話するのよ。あと…悪い人に会ったら個性でもなんでも使っていいから逃げること。」
「…うん。」
大きなキャリーケースを引きずりながら出発するお母さんを見送る。大丈夫、家で1人、なんていつもの事だ。やけに広く感じるリビングに戻り、カーテンを閉める。今日のご飯はどうしよう、明日は学校が休みだから、なんて考えながらソファーに寝転がる。
まどろみの中、思い出すのは幼い頃の記憶。お父さんがいて、お母さんがいて、お兄ちゃんがいて。そんな楽しかった頃の記憶に想いを馳せながら、わたしは眠りに落ちていった。
_____ふと、インターホンの音で目が覚める。この音はどうも苦手だ。心臓に悪い。びくりと跳ね起き、誰だろうと恐る恐る玄関へ歩み寄る。今が何時かは分からないが、外はもうすっかり暗くなっていた。
新聞の勧誘か、宗教の勧誘か。知らない人だったら出ないようにしようと、カメラのモニターを見ると、そこには見覚えあり、どころかここ最近は毎日のように会っている紅白色の頭。
まだ寝惚けていた頭は一気に覚め、受話器を取り話しかける。
「と、轟くん?どうかしたの…?」
『さっき、お前の母さんから連絡あった。3日も、お前が家で1人だからって。』
いつの間に轟くんと連絡先交換してたんだろう、本当に手が早い母だ。
早急にオートロックの解除ボタンを押して、轟くんを家に招き入れる。というか、自分の不注意で轟くんにまで迷惑をかけてしまうとは、実に不甲斐ない話である。