第11章 都市伝説
その後警察の取り調べを受け、男は無差別に女子高生を襲い、【瞬間移動】の個性を持つ蒼井のことを探していたのだそうだ。
男は蒼井の個性が欲しかった、と、それ以上のことは何も言わなかったそうだ。
すっかり暗くなってしまった夜道を、蒼井と二人で歩く。まるで、最初に会ったあの日の夜みたいだ、なんて思いながら隣で歩く蒼井の顔をちらりと見る。
「あ、あの…ありがとう轟くん、また、助けられてしまいまして……」
「…別に、俺がしたかったことをしただけだ。」
あの日とは違い、少し恥ずかしそうに頭を搔く蒼井。よく見ると、男に掴まれていた手首が僅かに赤く腫れていた。俺は歩みを止め、右手で蒼井の腫れた手首に触れる。
びくり、と少しだけ肩を跳ねさせた蒼井だったが、すぐに手首を差し出した。
「…大丈夫か。」
「うん、あの人目死んでて正直めっちゃ怖かったけど、……轟くんが来てくれたから。でも駄目だよね、ヒーローになるってんだからこれくらい自分で対処できないと…!」
ぴき、と手のひらを少しだけ凍らせ患部に触れる。蒼井の手首は細くて、少し強く握っただけでもすぐに折れてしまいそうで怖かった。
蒼井の個性の弱点。それは至極デリケートな個性であること。一歩間違えれば大怪我に繋がる個性である故、1度転移するだけでもかなりの集中力を要する、と、蒼井自身から聞いた話だ。
「…あの人にね、言われたんだ。お前の個性はヴィラン向きだって。1人じゃ何も出来ない、逃げることしか出来ない。弱虫のこそどろが使う個性だって。…確かに、そうだと思っちゃった。」
「……ンなこと、」
「でも、わたしの個性が悪いわけじゃない。わたしが悪いんだ。わたしがもっと強くなれば、個性だって強くなる。わたし、もっと強くなりたい。」
あの日、後悔と自責に潤んでいた瞳。教師の説教に怯えていた眼。それが、何年も前に感じる程、こいつは強くなっていた。
月明かりに照らされる蒼井がきらきらと光る。
手のひらの氷はいつの間にか溶け、蒼井の体温だけが伝わっていた。