第11章 都市伝説
「最近、この辺で女子高生を狙った変質者が出てるらしい。大丈夫だとは思うが、なるべく2人以上で登下校すること。以上。」
夏休み1週間前。
帰りのホームルームで相澤先生が不審者について注意を促す。そういや、この前も女子高生が誘拐されかけたなんつーニュースがあったな。
あいつは、は大丈夫だろうか。そんなことを考えながらホームルームが終わり開放感にざわつく教室を後にする。
「轟、今日みんなで買い物行くって話してたんだけど、轟も来るでしょ!?」
同じクラスの芦戸だ。いつも元気で騒がしい、このクラスのムードメーカー、と言ったところだろうか。誰にでも分け隔てなく話しかけ、俺のこともよくこうして誘ってくる。
「悪い、先約がある。」
「何よ、もしかして彼女ぉ!?誰、誰!?」
「…そんなんじゃねえ。」
なんだ違うの、と明らかにがっかりと肩を落とす芦戸を横目に、帰路につく。先約なんて嘘だ。あいつとは約束なんかしてない。
『あの子のそばに、居てあげて。』
…蒼井の母親に言われたからでもない。俺がそうしたいから、する。それだけだ。
蒼井の学校へは歩いて20分程。いつもより少し早めに歩を進める。帰りのホームルームの話がやけに引っ掛かる。こういう時の勘はよく当たる方だ。
「…っやだ、離して…!」
「いいから、付いてこい!」
___当たりだ。
蒼井の学校の手前、蒼井が知らない男に手首を掴まれ抵抗している。只事じゃねえ、相澤先生が言ってた不審者だろうか。そうなら即刻警察に突き出してやりたいところだ。そえでなくても即刻警察に突き出す。
「おい、」
「…っと、どろき、く、」
ヒーロー殺しの一件以来、保護管理下以外での人に向けた個性の使用を固く禁じられていた俺は、不審者の腕を掴んで蒼井から引きはがす。
蒼井の怯えた瞳が俺の方に向けられる。全くこいつは、厄介事を引き寄せる個性でも持ってんのか。
「こいつに何の用だ。」
「…ッ離せ!」
蒼井を背中に隠すと、男は懐から刃物を取り出し、俺に切りかかって来る。咄嗟に男の腕を離すと、男は震えた声で刃先をこちらに向けながら話し始める。
「お、俺にはそいつの個性が必要なんだ…このクソみてぇな人生から逃げるには、そいつの個性が…!」