第11章 都市伝説
「…ふうん、雄英に?」
「あ、あれ、あんま驚いてないね。」
教室に入り、かばんも置かずに席に座り窓の外を眺める春香の元へ直行する。先刻先生に話した内容をそのまま春香にも伝えた。余程わたしは雄英に行きたい顔をしてたのだろうか、春香も先生同様あまり驚いていないようだった。
「そりゃそうよ。あのイレイザーヘッド、最初からアンタ狙いだったんでしょ。ずっと見られてたわよ、アンタ。」
「う、うそ」
「ホント。」
くすりと笑う春香を見て、そこに若干の寂しげな雰囲気を感じ取り胸を押さえる。春香だって本当は、雄英に行きたかったんじゃないだろうか。春香は個性も強いし頭も良い。本当は、わたしよりも春香の方が雄英に行くべき人間なんじゃ。
そんな考えが頭をよぎる。と、不意に頭に鈍い痛みが走る。
「なんて顔してんのよ。」
「い、痛い……」
春香の脳天チョップを受けたわたしは両手で頭上を押さえる。これは親友にするチョップじゃない、それほどまでに力が込められていた。
トン、と春香がわたしの胸を指で付く。
「いい?勘違いしないでよね。あたし別にアンタに付いてきたわけじゃないから。あたしは自分でこの学校を選んで受験して、そこにたまたまアンタが来ただけ。」
「だ、だって春香だって雄英受験して…!」
「あんなの滑り止めよ、滑り止め。」
天下の雄英高校を滑り止め呼ばわりとは、さすが春香と言うべきか。肝が据わっている。
「別にヒーローになれるならどこの学校だって良いわ。だってあたしならどこにいたってヒーローになれるもの。それに…」
「それに?」
「雄英、訓練厳しいって言うし、嫌だったの。」
いたずらっぽく笑う春香につられて、さすが春香だ、なんて言ってわたしも笑う。少しだけ寂しそうな顔をした春香になんか気付かず。
春香はかたん、と立ち上がって、わたしを抱き締める。女の子らしい良い匂いがわたしの鼻を掠める。
「頑張りなさいよ、アンタ鈍臭いんだから。」
「…うん。」
次の春香の言葉は、教室のざわめきによって掻き消された。予鈴が鳴る。
また後でね、とわたしは自分の席に戻った。
夏休みまであと、1週間。