第10章 オリジン
「あれ、轟くん帰るの?折角買ってきたのに。」
「…ああ。悪い。」
「ううん、気を付けて帰ってね。」
蒼井母に頭を下げ、蒼井の家をあとにする。外に出ると、丁度飲み物を買って帰ってきた蒼井と鉢合わせする。
あんな話を聞いた後だ、色々考えることはあるが、なるべく表情を変えずに接する。
「またな。」
「…ッう、うん…」
蒼井の前髪を優しく梳く。
何度もやっているこの行為だが、蒼井は前髪が1番手触りが良くて、つい触ってしまう。…それに、これをやるとみるみるうちに蒼井の顔が赤くなって、少し、面白い。
こいつに一度触れると、もっと触れたくなる。そんな気持ちに蓋をして、帰路につく。
「焦凍。」
「……親父、」
蒼井のマンションの敷地から出て道路に出ると、そこには親父が立っていた。なんでここに居るとか、何の用だとか、頭に浮かんでは口に出るまでに消えていく言葉は山ほどあるが。
未だにこのクソ親父のことは許してない、許すつもりもない。
こいつは、昔から何も変わってねえ。
「あの娘の個性は?」
「……は?」
「結婚を考えているなら女は個性で選べ。そこらの没個性の奴とは連むな。お前とは別の次元の人間だ。」
……こいつは、昔から何も変わってねえ。お母さんがあんな風になっちまったのも、俺がこんな風になっちまったのも、全部こいつの所為だってのに、こいつはなにもわかってねえ。
キッとクソ親父を睨みつける。
「ふざけんな、…言っただろ、俺は俺の道を進む。お前の操り人形にはならねえ。」
親父の横をすり抜け家へと歩き出す。フン、という親父の声が聞こえたが、わざと聞こえないふりをして親父から遠ざかる。
俺は、自分のしたいようにする。クソ親父の指図なんか受けねえ。
いつも、親父と話した後は怒りや苛立ちで心が満たされるのだが、その時だけは、昼間見た蒼井の涙と、決意に満ちた瞳が俺の脳を満たしていた。あいつを守りたい。そう口にしたことで、曖昧だった願いが確固たる決意に変わる。
今夜もまた、あいつのことを考えて眠る夜になりそうだ。