第10章 オリジン
「…でもね。いつか何かがあって、あの子がその事を思い出してしまった時、轟くんにそばに居てあげてほしいのね。」
「…なんで、俺が、」
「だって、好きなんでしょう。あかりのこと。」
「……」
「わかるわよ、だって世界一可愛い私の娘だもの。好きになっちゃうのも無理ないわ。」
黙り込む俺に向かって冗談よと蒼井の母親がくすくすと笑う。俺の返事を待たず不意に席を立ち、「夕飯食べていく?」という誘いをやんわりと断る。
『なりたい自分に、なっていいんだよ。』
昔、母から言われた言葉がフラッシュバックする。そうだ。俺がなりたいもの、俺が、したいこと。
がたんと席を立ち、蒼井の母親の方へ体を向ける。もう礼儀とかよく分かんねえ、とにかく、俺が今、この人に言いたいこと。
「……俺、」
「……?」
「俺、好きとかはまだよく、分からないです。…でも、今の話聞いても、あいつが悪いとかは、1ミリも思ってない。あいつが辛い時、苦しい時、そばに居てやりてえ、…って、思います。守ってやりたいと、思ってます。」
今の俺の本心。きょとんとこちらを見やる、蒼井と同じ色の瞳を真っ直ぐ見る。するとすぐにその瞳は細められ、ふにゃりと笑う。
「ありがとね、轟くん。」