第10章 オリジン
「あの子の個性、希少でしょ。そのせいで小さい頃からヴィランに狙われることが時々あってね。
…あかりが、5歳の時なのよ。あの子の父親が片足を失ったのは。」
「…?でも蒼井…あかりは、生まれた時から父親はヒーローやってなかったって、」
「あの子の中ではそうなのよ。……あかりが5歳の時、誘拐事件にあったの。瞬間移動、ワープ系の個性は極めて希少且つ、ヴィランの逃亡には打って付けの個性でしょ。だからその個性を欲しがるヴィランが居たのね。」
「…でも、個性を奪うなんてこと、できるんですか。」
「個性を奪い、個性を人に与えることの出来る個性を持ったヴィランが居るらしいのよ。まあ都市伝説みたいなものだけど。
あの子がヴィランに誘拐されて、事実上の人質となった時、夫が助けに行ったわ。だってヒーローだもの。…でもね。」
「ヴィランに怯えたあの子は個性を暴走させたの。誘拐犯の下半身を地面に埋めるよう転移させ、そのヴィランはコンクリートの地面に下半身を圧迫され腰から下のあらゆる骨が骨折、そしてその被害になったのは、あの子の父親も同じだった。」
「あかりの個性の暴走に巻き込まれ、あの子の父親は右足をコンクリートの壁に転移させられ、膝から足首にかけて複雑骨折。それに加え、助け出される時、無理に引っ張ったことで皮膚が剥がれてしまった。」
「でも、そんな現実、5歳のあの子に教えるわけにはいかなかった。トラウマになっちゃうでしょ、一生あの子は、父親の片足を奪ったと自責の念に苛まれて生きることになる。そんなの、可哀想じゃない。……だから、記憶操作を個性とする医者に、その事件の一部始終をあの子の人生から消してもらった。
…まあ結局、あの子は父親を殺したって自分を責め続けてるんだけどね。」
その話を聞いて、俺は黙っていることしかできなかった。何を言っても無駄な気がして、何を言っても綺麗事にしかならない気がして。
膝の上で握った拳を、ぎゅっと握り締める。