第10章 オリジン
母と娘、ってのはどこもこんな感じなんだろうか。中睦まじげに会話する姿を見て、若干の疎外感を覚える。当たり前だ、俺はここの家の人間ではないのだから。
蒼井が飲み物を買いに外に出ると、先程とは打って変わって、蒼井の母親は静かになり蒼井が出て行った扉を微笑みながら眺めていた。
他人の親と二人きり、というのは、初めてで、どうにも落ち着かねえ。
「…あの子のこと、最初会った時どう思った?」
それはあまりに唐突な質問で、即答できずに数秒黙る。最初に会ったとき、あの廃ビルで、会ったとき。
「……危なっかしい、やつだと。」
「はは!わたしも。あの子ってば昔から、女の子だってのに木には登るわ川で遊んで水浸しになって帰ってくるわ…」
「…さっきも、川に足突っ込んでました。」
「やだあの子、この歳になってもまだやってんの!」
出てくるのは当然蒼井の話題ばかり。蒼井の話をする蒼井の母親は嬉しそうで、なんとなく、病室で俺の話を嬉しそうに聞いてくれるお母さんのことを思い出す。母親ってのは、どこに居ても、誰といても母親なんだと、そう思った。
「…轟くん、だっけ。合宿では、あの子のこと守って怪我したみたいで、ごめんなさいね。…そして、ありがとう。」
「……いえ、俺は…自分のしたいように、しただけで。」
嘘はついていなかった。あの時、恐怖に支配され怯えていたアイツを見て、守りたいと強く思ったんだ。…結果的に助けられたのは、俺の方な気がするが。ふと視線をテーブルの中心に落とす。
「……あの子から、父親の話は聞いた?」
「あ…はい。さっき。」
「そっか。そんだけあの子が信用してるってことね。んじゃあそんな轟くんには、もうひとつ、あの子のことで知っておいてほしいことがあるの。」
それまでおちゃらけた笑みを浮かべていた蒼井の母親は急に真面目な顔をして話し出す。本人のいないところで、こんな話を聞いていいのだろうか。もし、あいつが俺に意図的に隠している事だったら。
そんなことを考えながらも、俺はあいつのことをもっと知りたいと願っていた。