第10章 オリジン
「あかり?帰ったの?…あらアンタ彼氏連れてきたの!?マジ!?」
「おっ、お母さ…!なんで居るの…!」
奥のリビングから出て来たのはわたしの母だ。いつもは夜遅くまで働いてくれているのだが、稀にこうして早く帰ってくる日がある。まさかそれが今日だなんて。
「…どうも、いつもあかりさんに、世話になってます。」
「あらまあイケメンな上に礼儀正しい子じゃない!採用!!」
「お母さん!」
ぺこり、と轟くんが頭を下げると、お母さんは新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせる。やけに浮ついているようだ。
お母さんに連れられ半ば無理矢理家に入れられた轟くんを追いわたしもリビングへ向かう。
「どうぞ座って!えっと…」
「…轟です。」
「轟くん!それで今日はどうしてうちに?嫁にならどうぞ貰って行って!」
「あのねぇ。」
椅子に座るお母さんと轟くんの間にあるテーブルに手を付き、二人の間に割って入る。
「やめてよ、轟くん困ってるでしょ。別にそういうのじゃないから。」
「あらそうなの。あのエンデヴァーの息子さんに嫁入りするってんならお母さんラッキーって感じだったんだけどな。」
「…お母さん」
何も知らずに轟くんの地雷を踏み抜く母の顔を睨み付ける。決して悪い人じゃないのだが、思ってること何でも口に出すデリカシーのなさはいい加減直してほしいものだ。
轟くん、気を悪くしてなければいいんだけど。そんなことを思いながら轟くんのほうをちらりと見やると、ふと目が合う。母親の手前、恥ずかしくなってすぐに目を逸らしてしまった。
「…ね、あかり、下の自販機でジュース買ってきて。せっかく来てくれたのに何も出さないのも失礼でしょ?」
そんなわたしたちをニヤニヤと見ていたお母さんはそう提案する。
わたしは変に納得して首を縦に振るも、お母さんと轟くんを2人きりにするのはどうも不安だ。
「……轟くんに変なこと吹き込まないでよ。」
「はいはい。」
もう轟くんをうちに連れてくるのは絶対にやめよう。
そんなことを考えながら靴を履いて自販機に向かう。そういえば、轟くんって何が好きなんだろう。あの夜、轟くんのお家のことは聞いたけど、好きなものとか、嫌いなものとか、そんなことは何も知らないことに気づいた。