第10章 オリジン
「そろそろ、帰ろっか…あ!」
「…どうした。」
「タオル、忘れてきちゃった。今日はずっと座学だったからなあ。」
川から上がろうとしてハッとする。そうだ、足を拭くものを持ってきていなかった。そもそもこんな風に水遊びをしたのなんて何年ぶりだという話。
濡れた足のまま靴を履くわけにもいかないし、仕方ない、ハンカチで拭こうとポケットをまさぐると、不意に身体が宙に浮く感覚に「ひゃ、」と小さく声を上げる。
「とっ、轟くん…!?」
「この方が早い」
「い、いや待って轟くんこのまま帰るつもり?恥ずかしいのはわたしだけじゃないんだよ?!」
轟くんはわたしの背中と脚を持って抱え上げていた。いわゆるお姫様だっこ、というやつだ。
轟くんはわたしを抱えたまま、私の靴と鞄を持ってすたすたと帰路につく。ああこんなことならもっとダイエットしておくんだった。わたしは効果が無いと分かっていても、少しでも軽くなれと願いながらお腹に力を込めた。
「お前んち、この近くだっただろ。」
「だ、だって…!重くない…?」
「……」
「やっ、やっぱり重いんじゃん!?」
「…オールマイトよりは…軽い」
「当たり前だよ!」
ああやっぱり重いんだ、わたしの大馬鹿野郎、あれだけ夜中のケーキは駄目だと言って聞かせたのにこの口が…!
そういえば最近春香にも顔が丸くなったと言われたばかりだった。正直かなりショック。
…けれど、誰かに抱かれて帰るなんて、何年ぶりだろう。もちろん恥ずかしい気持ちはあるけれど、幼い頃、お父さんにだっこされながら帰る情景を思い出して、少し泣きそうになる。
轟くんの首に腕を回しきゅ、と力を込める。このドキドキが伝わりませんように、なんて願いながら。
「ごめんね結局家まで送ってもらっちゃって、重かったでしょ、ちょっと休んでいく?」
「別に、大したことねぇ。」
私の家はごく普通のマンションの12階。本来家族4人で暮らすはずだった家は、今やわたしとお母さんの二人だけになってしまって少し広い。
玄関の戸を開け、帰り道の間にすっかり乾いた足を降ろされる。ここまで誰にも見られなくて良かった、もし見られていたらきっと冷やかしの的だっただろうな。