第10章 オリジン
「強くなろうって、思った。それで、お父さんの出身校が雄英だからっていうのもあるけど、日本一のヒーロー科がある雄英に行きたかったんだ。」
「……」
「…轟くん?どうかした?」
「いや……思ってたより重い話で、……悪い、なんて言ったらいいか、わかんねえ。」
「素直ですねえ。」
わたしの右手を握る轟くんの力がぎゅ、と強くなる。
お父さんの話を自分から誰かにしたのは初めてだった。こんなわたしを見て、轟くんはどう思うんだろう。幻滅した?それとも、可哀想って思ったかな。
「……俺ん家は、親父がクソだし、正直居なくても全然困んねえから、お前の気持ち、100%わかってやれるわけじゃねえけど、……誰かの為に強くなろうって思えるのって、すげーことなんじゃねえかと、思う。俺には、出来なかった。」
「……!」
心の迷いが、晴れていく。
繋いだ手から伝わる体温が、わたしの心を溶かしていくみたいだ。
わたし、雄英に、行きたい。
「わたし、あの脳無を見た時、ほんとに怖くて、動けなかった。轟くんが居なかったら、死んでたかも。」
「…なら俺と居ればいいだろ。」
「え?」
「ヒーローは1人でやんなきゃいけねえなんて決まりはない。お前が怖くて、動けなくなった時は、俺が、……守ってやる。」
脈打つ鼓動が早くなる。
普段のわたしなら、そんなんじゃヒーローとしてやってけないよって、笑うのに。
目の前の景色が霞む。
ぽたぽたと、制服のスカートに濡れた跡が残る。
「……ありがとう…轟くん……」