第10章 オリジン
『…ッひ、』
お父さんが戦っていたソレは、到底この世の物とは思えない化け物だった。
身体中に無数の目が付いていて、その全てが剥き出しになって、四方を睨みつけていた。
お父さんはもうぼろぼろだ、だめだ、嫌だ。
『お父さん!!』
『…ッあかり!?馬鹿お前、なにやってるんだ!早く逃げなさい!』
『お父さんごめんなさい…!わたし足のこと知らなくて!もういいから、ヒーローなんてやらなくていいから帰ろう!もう恥ずかしいなんて言わないから…!!』
『……あかり…』
そうだ。おとうさんがそばに居てさえくれたらなんでも我慢できる、近所の悪ガキたちも、クラスのむかつく男子も、そんな人たちよりももっともっと、お父さんのほうが強いから。
『…なんだおまえは。』
『……!』
無数の目が一斉にこちらを見る。
怖い、逃げなきゃ。…ッだめだ、足がすくんで動かない。個性も発動できない。
化け物から伸びた鋭い触手が、わたしを襲う。
咄嗟に目を閉じ構えるが、想定した想定した痛みは来ず、ゆっくりと目を開ける。
『…!!』
バケモノの、黒い触手が、お父さんの身体を貫いている。コンクリートに滴る血。これは紛れもない、お父さんの血だ。
『お、と、さ……!』
『……けが、無いか……あかり…』
お父さんの身体から触手は抜け、その場にどさりと倒れ込む。この時の血の匂いを、今でも覚えている。
『お父さん!いやだ、いやだ!置いていかないで、いい子にするし、宿題もちゃんとやるから、だから…!』
『あかり…お父さんはな、お前を守るためならなんだってやるさ。いい子じゃなくていい、宿題なんかやらなくたっていい。お前が、元気でいてくれたら、それだけでお父さんは…』
それが、お父さんの最期だった。
お父さんを殺したヴィランがどうなったのかはわからない。はっきり言ってそれどころではなかったんだ。
お父さんを殺してしまったという自責の念が未だにわたしの頭に絡みつく。
泣きじゃくるお母さんを見て、わたしはとんでもないことをしてしまったんだと思った。後悔したってしきれない。もう謝ることすらできない。
でも、だからこそ、