第10章 オリジン
『…え!?お父さんが、ヒーローに…!?』
『う、うん。さっき、出て行ったよ。』
『バカ!アンタなんてこと言ったの!お父さんの足は、もう……!』
15年前。
わたしが産まれてから、1週間後。
お父さんの右足は、ヴィランから受けた傷によって生涯動くことはないと診断された。仲間を置いて逃げたのは、応援を呼ぶため。それ程までに厄介なヴィランだったのだ。
お父さんはずっとそれをわたしに言わなかった。
医療技術が進んだ現代、サポーターを付けてさえいれば日常生活に支障はなかった。あまりにも普通に歩くお父さんしか知らなかったわたしは、そんなこと、知る由もなかった。
ああ、なんてことを言ってしまったんだろう。足が使えないままヒーロー活動なんて、何を考えてるの?足が使えないから無理だって、言えば良かったじゃん、どうして。
わたしは家を飛び出した。
今ならまだ間に合う、お父さんに会って、謝って、帰ってきてもらおう。ヒーローなんかもうやらなくてもいい、だって、いつだって、
『ほら、転んじゃ危ないから走るなよ』
『迷子になったらいけない、お父さんが肩車してやろう!』
『学校が終わったら真っ直ぐ帰ってくるんだぞ!友達と寄り道する時は、誰と居て何時に帰ってくるかをちゃんと報告すること!』
お父さんはいつだって、わたしのこと守ってくれてたじゃないか。
『……ッう、』
『…!お父さんの事務所の…!大丈夫ですか…!?』
『君は……蒼井のとこの……ッいかん、早く逃げなさい、今、君のお父さんが交戦中で……』
走ってるうちに、道に人が倒れてることに気付いた。それはお父さんの事務所のひとだ。
ひどい怪我、プロのヒーローがこんなにやられちゃうなんて。
お父さんが、交戦中。だめだ、だめだ。はやく、はやくお父さんを連れて帰らなきゃ。
空、地上、路地裏。色んなところに視線を泳がせお父さんを探す。
…いた、お父さんだ。