第9章 迷い
いや、悩みの種はそれだけではない。二日前。轟くんのお見舞いに行った日。
『…悪い、つい。』
ついって何…?
好きだとも何とも言われなかった、ただキスをしただけ。それが何を意味するキスなのか、ずっと考えている。
全ての授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。ああ今の授業、何も聞いてなかったな。
教科書類を机の中にしまい、鞄を持って席を立つ。最近買ったばかりのこの鞄も、今となっては思考することの上位15位くらいになってしまった。新しい鞄にうきうきしてる余裕なんか今のわたしには無い。
「なあ、蒼井、一緒に帰んねぇ?この前のヴィランのやつ、すげー大変だったな。」
「高橋くん。」
同じクラスの高橋くんだ。正直あまり喋ったことがないけど、心配、してくれてるのかな。優しい人だ。
特に断る理由も見付からず、いいよ、と返事をした。
「いや、お前とはずっと話してみたいと思っててさ。蒼井、かわいいから。」
「そ、そんなこと…でもありがとう。」
高橋くんと他愛もない話をしながら学校を出る。頭の中は相変わらず転入の件と轟くんのことばかりであったが、なんとか会話は出来ていた…と思う。
「それでさ、…!」
「…?高橋くん?」
それまでずっと喋り続けていた高橋くんの口が止まる。高橋くんの怪訝そうな視線の先、わたしも視線を向けると、校門に背中を預けた轟くんが立っていた。
「…あいつ、前もうち来てたよな?合宿でも随分一緒だったし、蒼井さん付きまとわれてんの?俺が守ってやろっか。」
「え?轟くんはそんなんじゃ…!」
高橋くんに肩を引き寄せられる。別に高橋くんのことが嫌いなわけじゃないけど、決して好きなわけじゃない。こんなことをされても正直困るだけだ。
何より、こんなとこ轟くんに見られたら…。
「あ。」
轟くんと、目が合う。