第9章 迷い
「…雄英に、転入…?」
「ああ。お前宛てに勧誘が来てる。」
短期合宿で脳無に襲われてから3日後、あんなことがあっても変わらず日常はやってくる。
そんな中、担任の先生に呼び出され、一体何のことで怒られるのかとびくびくしていたら、これだ。
渡された雄英の転入の手引き書に目を通す。
「俺も、お前はここに居るより雄英に行った方がもっと伸びると思う。…けどこの前の合宿、随分怖い思いをしたみたいだな。USJのこともあるし、雄英に行けばまたこんなことが無いとも限らない。」
生気のない脳無の目を思い出して背筋が凍る。プロになる前にあんなの何度も経験するの?今回こそ、轟くんのおかげで助かったのに、今度は轟くんが居なかったら?
「怖いと思うなら、行かなくても良い。お前ならこの学校でもきっとプロヒーローになれる。
……が、USJの時の被害者である雄英の1-Aを見ただろう。そんなイレギュラーな経験さえ、己の力にしている。」
「……」
「良く考えておけ。返事の期限は夏休み明け一週間前までだそうだ。俺は部活で夏休み、ほぼ学校にいるから、いつでも相談しに来い。」
雄英に、転入。以前のわたしなら即イエスの誘いだ。
でも、でも。
あの時の恐怖が蘇る。
人生で初めて、「死ぬかも」って思った瞬間だ。
ふと窓の外を見やる。カンカンと太陽が校庭を照り付け、この暑さの中昼休みを削ってまでサッカーに勤しむ男子たちを見て、轟くんに、会いたいと思った。