第8章 日常
短くなっても尚、綺麗な色を失わない蒼井の髪に触れる。ふわりと石けんの香りがする。
そのまま蒼井の頭を毛流れに沿って撫でやる。蒼井の「な、何?」とはにかむ顔を見て、心臓のあたりがぎゅっとなる。最近よくあるんだが、精密検査を受けた後医者に言われたのは肋骨の損傷だけだった。なんだこれ。
「も、もう、何? 恥ずかしいんだけど。」
「…近所の子犬に、似てると思って。」
「なにそれ。」
なんでかわからねえが、こいつに触れたいと、思う時がある。だってこいつが、触れるとあんまり嬉しそうな顔をするから。
…こいつ、誰にでもこんな風に触らせてんのか。
そんな風に考えると、あれだけ浮ついていた心が、少しもやつく。
こいつ、同じ学校にもこんなふうに触れてくるやつ居るのか?だから俺にもこんなに無防備なのか。
所詮は全部俺の妄想だ。
けど、それが何となく面白くなくて、俺だけがこいつに触れていい存在だったら、なんて思って。
「轟くん…?」
俺は蒼井が嫌がらないことをいいことに、蒼井の唇に口付けた。