第8章 日常
あれから一晩明けた次の日。
わたしは轟くんのお見舞いに来ていた。
幸いわたしはかすり傷程度の軽傷、しかしわたしを守って戦ってくれた轟くんは、肋骨損傷が激しく入院している。雄英のリカバリーガールに治療を施してもらったらしく、動けるくらいにはなってる…と。受付の看護婦さんに聞いたのだ。
守ってもらっておいてあんなにわんわん泣きわめいた手前、ちょっと会いに行きづらい。
ああやっぱりわたし、轟くんにはかっこわるいとこ見せてばっかりだ。
ええい、迷っていても仕方ない。
女は度胸!行けわたし!
扉をノックするが返事はない。恐る恐る扉を開ける。
「と、轟くん…?」
「…なんだ。」
「い、居るなら返事くらいしてよ…!」
悪い、と、悪びれた様子もなく笑う轟くんを見て、どきりと鼓動が跳ねる。
そろそろとベッド脇の椅子に腰かける。
「けが、大丈夫?」
「ああ、何ともねえ。すぐ退院できる。」
「そっか、良かったね…」
ひとまずほっと胸を撫でおろす。
思ったよりも元気そうな轟くんを見て心が温かくなるのを
感じる。ああ、やっぱり、すき、だなあ。
「お前は、大丈夫だったのか」
「うん、ちょいちょいかすり傷できただけだよ、全然何ともない!」
「そうじゃなくて…」
至って元気だよ、と無い力こぶを見せつけるも、轟くんの心配はわたしの髪にあるみたいで。
轟くんの手が伸びてきて、する、と髪を梳かれる。
優しい手、少し骨ばってて、男の人の手だなと思う。
「…随分、短くなっちまったな。」
「…言ったでしょ、こんなのすぐ伸びるよ。」
今朝、お母さんに長さだけ切り揃えてもらった髪。今度ちゃんと美容室行かないとね、なんておどけた風に言うと、そうかと轟くんは緩く笑った。
「なんか、今日の轟くん良く笑うね。」
「…お前がいるからだろ。」
「え、」
もう、本当に心臓に悪い。
轟くんにとっては深い意味はないのかもしれないけど、わたしだって年頃の女の子なんだから、そんな甘い言葉の数々を投げかけられては堕ちてしまうに決まっている。
轟くん、誰にでもこんなこと言ってるのかな。