第7章 合宿最終日。
あの日、月明りに溶けていた髪。
手触りが良くて、あの夜何度も指に通した髪。
蒼井は、落ちていた氷の破片でヴィランに捕まれていた髪を切り離した。
「…ッ轟くん!」
「……ッ!」
はっと我に返り、蒼井を人質に取ったヴィランを氷で足止めする。
すると蒼井は瞬間移動で俺の元へ飛び、俺の手を引いて崖下に飛び降りる。
「ッ、お前」
「逃げよう、!大丈夫、もう、大丈夫だから!」
こいつ、さっきまでとは全然顔つきが違う。
何か、迷いを晴らしたみてえな、大事なモンを思い出したみてえな。
その後、蒼井の瞬間移動で最短距離を飛び相澤先生の元へ事態を知らせに行く。
警察への通報、プロヒーローの要請。幸い攻め入ってきた脳無は三体、けが人は、俺を除いてゼロ人。
俺たちは施設で警察の到着を待つように指示された。
「お前ら、よくやった。あとは俺たちに任せろ。…USJの時ほどのやつらじゃねえ、俺らで対処できる。」
「…ッ轟くん、怪我…!」
ズキン、と忘れかけていた痛みが蘇る。
肋骨もイかれてんのか、息をするのが苦しい。いてえ。
立っていられなくなって、その場に座り込むと、蒼井も膝を付いた。
「…髪、」
「え…?」
「髪、女の命じゃなかったのか、」
「…こんなの、すぐ伸びるよ。」
腰まであった蒼井の髪は、胸の辺りまで短くなってしまっていた。疎らに切られたあとも、痛々しい。
悪い、と前髪を梳くと、蒼井の瞳からぼろぼろと大粒の涙がこぼれた。
「めッ…ちゃ怖かったぁ…」
俺をここまで連れてくるときのあの顔は、恐怖を忘れた顔なんかじゃなかった。
恐怖を押し殺し、誰かを助けるためだけに体を動かした。そうだ。こいつ、あんな化け物見たの今回が初めてだったんだ。
小さく震える肩を抱き締める。
大事なモン全部守れるヒーローに、もう、こいつに涙なんか流させねえくらい、強いヒーローに。
短期合宿三日目。
施設内への脳無襲来事件は、雄英教師の迅速な対応により被害は最小限に抑えられた。
この後起きる事件のことなど誰も知らないまま、生徒を守り切ったと雄英高校は賞賛の声を浴びせられていた。