第7章 合宿最終日。
『大事なモン、全部守れるヒーローになりてえ。』
昨晩、まどろみの中聞いた轟くんの言葉を思い出す。
わたしは何のためにヒーローになろうと思ったの?お金の為?名誉のため?違うでしょう。
わたしだって、ヒーローに、
動けない轟くんに近づいていくヴィランの背中を、昨日貰った百さんの鉄の棒で思い切り殴る。手が痛い。
わかってはいたけど全く効いてないみたいだ。けど、
タゲは、取った。
「…蒼井!バカ、逃げろ…!」
「轟くんを、置いてなんかいけないよ。」
ぎょろり、生気のない眼がこちらを向く。
心臓は痛いくらいに跳ね、未だに恐怖で足が竦む。かっこいいこと言ったつもりなのに、声が震えててかっこわるい。
そうだ、わかってたことじゃない。わたしの個性は、敵の攻撃を回避することに特化している。
まだ心が不安定で、長距離のテレポートはできない。ッけど、攻撃をかわすくらいなら。
ヴィランの拳がわたしめがけて振り下ろされる。
「蒼井…!」
ひゅん。
3歩右にテレポートする。直接は当たらなかったが、衝撃で吹き飛ばされる。
なんて力、ほんとにオールマイト並み…!
大丈夫だ、このヴィラン、頭はあまり良くない。
攻撃パターンは単純だし、これならかわせる…!
その時のわたしは、脳無の怖さを、何もわかっていなかったんだ。
ごッ、とヴィランが炎を吐く。
あまりに唐突で、あまりニュースも真面目に見ていなかった私は、この脳無と呼ばれるヴィランが複数個性をもっていることを、知らなかったんだ。
「…ッ!」
咄嗟のことで反応できず、ぎゅ、と目を閉じる。
しかし想定した熱さは訪れず、代わりに肌を刺すような冷気がわたしの身体をすり抜けた。
目を開けなくてもわかる。
「轟くん…」
「…ったく、無茶しすぎだ。」
ヴィランに殴られた箇所が痛むのだろう。脇腹を押さえながらもわたしの前に立って、守ってくれた轟くんの背中は、世界で一番かっこいいと思った。