第1章 わたしだって、ヒーローに。
誰か、 はやく、
_____バカ、誰かじゃない、わたしがやるんだ。
これでも一応、ヒーロー志望なんだから!
持っていた評価用紙も鞄も投げ出して、崩れた瓦礫の向こうへ飛び込む。爆発で酸素が薄くなっている。
犯人が出てこないところからすると、火元から遠い上の階に居るのか、それとも呼吸を必要としない個性を持っているのか…
普通に考えれば前者だ。どちらにしても人質を死なせてしまっては人質の意味がない。
煙を吸わないように袖で口元を押さえて上の階へ駆けあがる。
「なあ、こいつらどうする?このガキはともかく…こいつ、雄英の生徒だろ?もしヒーロー科の生徒だったらどうすんだよ。何かしでかさないうちに殺しちまった方が良くねぇ?」
「そうだな…人質なら一人で十分だしな。」
「…やめとけ。ンなことしてもお前らはヒーローに捕まんのがオチだ。」
…ちょっとまって、人質って一人じゃなかったの?
六階まで駆け上がったところで人の話し声が聞こえ息を潜める。敵の人数とできれば個性、武器を把握するべし。わたしがこの一か月で学んだことのひとつだ。
敵は二人、5歳の子供は一人の大男に抱かれ気を失ってるみたいだ。そしてもう一人、人質がいる。
白い髪と赤い髪のウルトラマンヘア…あれ染めてんのかな。…っていうかあれ、雄英の制服だ。ここからではよく見えないが、赤白少年に向けられた刃物を見た瞬間、足が勝手に部屋の中へと向いていた。
「や、やめてください!」
一階で拾った、割れたガラスの破片を犯人に向ける。
足が震える、怖い。こんなところまで来てしまって、わたしは一体何をしてるんだろう。
「…ンだぁ?お前。誰だ?」
「…」
赤白少年と二人の犯人の視線が突き刺さる。
勝てる算段があるわけじゃない、でも少し、ヒーローが来るまで少しでも時間稼ぎができたら。
「死にに来たってのか?最近の若いもんは嫌だねぇ」
「…バカ、さっさと逃げとけ!」
刃物を持った細身の男が一歩一歩近づいてくる。
ここまで駆け上がってきたのに、今更怖気づいて後退ってしまう。いかんいかんこんなことでは!
せめてあの男の子を、大男の手から救い出せたら…!
…できる、大丈夫、この一か月、遊んでたわけじゃないでしょわたし!