第6章 恋の自覚。
…自分でも驚くくらい大胆な提案をしたと思ってる。先生や宿の人に言いや合鍵だって貰えたと思う。何も俺の部屋じゃなくても、他の女子の部屋に泊めてもらえば良かったと思う。
こいつには、警戒心というものが無いのか?いや別に、何もする気はねぇけど。
2つ分、既に並べて敷かれていた布団の手前側を譲る。
時刻は夜11時。訓練に疲れ果てた生徒は皆眠っているのか、物音一つ聞こえない。
しん、とした空気が漂う。別にそのことが不快なわけではないが、ここの部屋に向かう途中から、やけに静かだ。
何か悩んでんのか、気難しそうな顔をして黙り込んでいる。
こういうのはあんま得意じゃねえが、適当に話を振る。
「…そういやお前、なんでヒーローになろうと思ったんだ。」
「……そういう、轟くんは?」
質問したはずが質問で返された。
前に姉が言っていた言葉を思い出す。
『人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るものよ』
…ってことか?女はよくわかんねぇ。
長い話になるのを察した様で、電気を消して布団の中に潜り込む。窓から入る月明かりが蒼井の横顔を照らす。
それが、女神かなんかに見えちまって、ぽろぽろと聞かれてもいないことまで言葉が零れる。
「…個性婚。知ってるか。俺はそれで生まれた。」
「親父は母のことを愛してなんかいなかった。あいつは、自分の欲望の為に、母の人生を奪ったんだ。」
「それでも、そんなクソみてえな親父を見てても俺は、ヒーローに、なりたくて、」
憧れ。
あんなクソ親父でも、多くの人間を救ったのは事実だった。
でも俺は、親父みたいなヒーローにはならねえ。オールマイトを倒すとかそんなんどうだっていい。
「大事なモン、全部守れるヒーローになりてえ。」