第6章 恋の自覚。
「いやぁ、食べすぎちゃった。今年の夏は海行けないわね…」
合宿二日目の夜。
夕食は、先生たちが用意してくれた豪華なバイキングだった。
和食から洋食、中華まで用意してある。
エリート学校っていつもこんなんなのかな。
「私部屋でちょっと休んでる。あかり先にお風呂行ってていいわよ。」
「うん、わかった。」
春香と別れ、大浴場へ向かう。
春香がいつまでも食べてるもんだから、お風呂が遅くなってしまった。もう誰もいないかな。
「…やっぱり誰も居ない…」
がらんとした脱衣所で一人服を脱ぐ。
う、ちょっと太った…?わたしも晩御飯食べすぎたかも。
がらり、大浴場への戸を開ける。
湯煙の中に人影が見える。ああそういえば、負けた人はお風呂掃除、だったっけ。百さんかな?
…ん、ちょっと、まって。あの、人影は、
「蒼井…!?」
「とッ、轟くん…!?な、なんでここ、女湯…!!」
咄嗟にタオルで体を隠し、その場にへたりと座り込む。
轟くんは向こうを向いてくれた。
「…風呂掃除、八百万が訓練で個性使いすぎて今部屋で休んでるって。…上鳴や峰太もいたけど、女湯の掃除は任せらんねえって、八百万が。」
「そ、そう…なんだ、」
「つか、外に清掃中って札出しといただろ。見てなかったのか。」
「み、見てなかった…」
「…ったく。」
轟くんはなるべくわたしを見ないように浴場の外に向かう。
「…終わったら呼べ。まだ掃除残ってる。」
「う、うん。ごめんね。」
……はあ、びっくりした。
身体を一度お湯で流し、露天風呂に浸かる。気持ちいい…日本人に生まれて心底良かったと思える瞬間の一つだ。
毎日泥と汗まみれになっても、これでリセット。
「…蒼井、」
「ひゃ、はい!」
扉越しに声を掛けられる。曇りガラスからうっすらと、赤と白のツートーンカラーが見える。
「今日は本当、ありがとな。何回もお前に助けられた。」
「そ、そんな。わたしはただ…」
「お前やっぱすげえよ。」
「…!」
嬉しい、うれしい。
誰かの役に立てたことが、認めてもらえたことが。ただ純粋に、嬉しいと思った。
昼間、轟くんに触れられたおでこの辺りが再度熱を持つ。