第5章 瞬間移動【テレポート】
「…すげえな。ちゃんと刺さってる。」
「うん…初めてやったけど、上手くいってよかった」
氷漬けになったヴィランの足元をまじまじと眺めながら轟くんが感心したように呟く。
でもこれは、大けがになってしまうので人間相手には使えない。結局は攻撃手段を得たことにはならないのだ。
「…ありがとな、助かった。」
さらり、前髪を梳かれる。
「…!」
「あ、…悪い、女は前髪が命、なんだっけか。」
今度は乱れた前髪を直すように毛流れに沿って撫でられる。今回は左手、温かい。
「…?どうした、顔赤いぞ。熱中症にでも…」
「だっ、大丈夫!全然、大丈夫…!」
ああ嫌だ、どきどきしすぎて、きもちがわるい。
触れられたおでこから全身に熱が広がるみたいだ。
ちょっとわたし!今は訓練中なんだから、集中、しないと…!
…ん?
「とッ、轟くん…!」
今、わたしの足元をすり抜けていったもの。間違いない。ターゲットだ…!
「ね、ねずみ!」
「追いかけるぞ!」
「…ッ、だめだ、見失った!」
「でも、この近くにはいるはず…!ちょっとまって、」
わたしの個性、瞬間移動は、移動先の空間を把握してなければ発動できない。空間認識能力、空間系の個性を使う上で必要となる能力だ。
わたしは、その力に長けている。
見るんじゃない、感じるんだ。
何がどこにあるのか、ターゲットの存在だけを感じ取れ。
「蒼井…?」
「……そこ!」
落ちていた小枝をターゲットを貫くように転移させる。
手ごたえあり!
「…すげえ。」
小枝が突き刺さり壊れたねずみのロボットを拾い上げる。
壊しちゃダメなんてルールなかった…よね?…ッハ、まってこれもしかして…!
「弁償…」
「い、いや。俺らも色んなモン壊してるし、大丈夫、だと思う。」
短期合宿二日目。
蒼井あかり、風呂掃除を免れる。