第5章 瞬間移動【テレポート】
死に際に走馬燈が見える、というのは本当みたいで。
この追い詰められた状況でわたしは、昔のことを思い出してた。
「あかり、瞬間移動っていうのはね。三次元を自由に行き来できる、空間系の個性で最も強い個性だと父さんは考える。」
「…?」
「はは。まだわからないか。…いいかい。個性っていうのは無限の可能性を秘めている。つまりはいろんな使い方があるってこと。不可能を可能にするのが個性だ。
いいか。お前の個性は素晴らしい。この世で最も自由な個性だ。
お前は、
何にだってなれるし、どこへだっていける。それを忘れるんじゃないぞ」
「…お父さん……」
「…蒼井…?」
そうだ。考えろ。不可能を可能にする、わたしにはそれができる。これまで、考えたことはあるけど、きっとできないと思って実践してこなかったこと、あるでしょう、わたし!
「轟くん、わたしがあいつの動きを止めるから、そしたら、あいつ、氷漬けにしてやって。」
「…できんのか。」
「できる!まかせて!」
あいつ、氷は飛んで避けてた。ということは、当たりさえすれば効くってこと。
できる、きっと大丈夫。
轟くんが放った炎を受け止め、一瞬だけヴィランの動きが止まる。
狙うは、足。
持ってきた百さんの鉄の棒を、ヴィランの足を地面に釘づけるように転移させる。
「轟くん!」
「…!」
そうだ。考えたことがあった。
もし、ふたつのボールを重なり合うように転移させたらどうなるのか。
わたし自身が、地面の中に転移しようとするとどうなるのか。
答えは、
「移動先の物体を、押し退けて転移する…!」
一つの空間に二つの物質が重なって存在するなんてありえない。
なら、どちらかの物質をその空間から追い出す他ない。
そしてその空間に存在して良い物体は、後からそこに押し込まれる物質が優先される。
「わたし…」
「…その使い方にもう少し早く気付いていれば、ウチに入れてたんだがなぁ。」
ぺらり、資料を捲りながら呟く。
夏休み明け、生徒が一人増えそうだ。