第4章 短期合宿、一日目の夜。
「はぁ~あ、まさかあんたに負けるなんて」
「爆豪くんが強かっただけだよ」
短期合宿初日の訓練は終わり、夕飯の後、温泉を満喫した私たちは、部屋に戻るべく宿の廊下を歩んでいた。
女子の部屋は親睦を図るため雄英との合同部屋だ。えっとたしか…麗日さんと八百万さん、だったかな。
「…私さ、前から思ってたんだけど。あんたって実は、もっとすごいとこに行ける人なんじゃないかって。」
「え?」
「あの轟焦凍、この前の雄英体育祭で準優勝だったじゃん。そんな奴が、あの訓練の時最も警戒してたのはあんたの力だった。」
…轟くん。あの廃ビル事件の日から、彼の中でのわたしの評価ってやたら、高い気がする。わたしはそんな大した人間じゃない。
「あんた、相当あいつに気に入られてんのね。」
「そっ、そんなんじゃ…」
轟くんはきっと、わたしの個性が珍しくて興味があるだけなんだと思う。現にさっきも、緑谷くんという人に、わたしの個性について根掘り葉掘り聞かれた。
『瞬間移動…すごい珍しい個性だよね!いいなすごいなあ、触れたものなら固形以外でも飛ばせるの?質量や重さに限界はある?一度に飛べる距離はどれくらい?そうだ、使い過ぎによるデメリットは…』
…。本当に、雄英は変人ばかりだ。
「あ、ほら。うわさをすれば。」
「え、」
「あ。」
目の前に見えるのは、宿のお土産屋さんから出てきた轟くん。手には小さなキーホルダーが握られている。
誰かへのお土産だろうか、轟くんでもお土産なんて買うんだ。意外だ。
「蒼井、」
「と、轟くん、こんばんは。おみやげ?」
「ああ、いや…」
あんた、相当あいつに気に入られてんのね。
さっき春香に言われたことが頭の中でぐるぐる回る。
いや、そういう意味じゃないって分かってるけど、個性が珍しいって理由だけでも、誰かに特別視されるというのは何だか落ち着かない。
「…これ、やる。」
「へっ?」
先ほどから轟くんの手に握られていたキーホルダー。
ずい、と差し出され、思わず受け取ってしまう。
「わ、わたしに?なんで?」