第3章 短期合宿
「…ッ死ね半分野郎!!!」
「なッ…蒼井の個性で上に飛んだのか」
正面突破では轟くんの氷の壁に阻まれてしまう。
人の警戒が最も薄い場所、それは頭上だ。
しかし、轟くんの反応速度では頭上からの攻撃でもきっと防げてしまう。では今この瞬間、最も警戒の薄い場所はどこか、わたしでもわかる。
春香の背後だ。
「…ッしま、」
「ごめんね春香!」
ひゅん。
春香の方に触れ、場外へ飛ばす。
「そこまで!爆豪、蒼井ペアの勝ち!」
「オイクソ女ァ!!話がちげぇぞ!俺が二人ともぶっ飛ばすって話だったろうが!!!」
「だ、だって怪我させないようにって…」
爆豪くんとは直接作戦会議をしたわけじゃない。「俺を半分野郎の上に飛ばせ」、爆豪くんに言われたのはそれだけだ。
あれ、わたし今。
「意外と…冷静だったな…」
「…だからあの入試方法は効率的じゃねぇって言ったんだ。」
心の中でぽつり、呟く。
蒼井あかり、あいつは、こんなとこで埋もれてていい人材じゃねえ。
「…やられたな。」
轟くんが近寄ってきて、手を差し出す。
一瞬その差し出された手の意味がわからなくて硬直するが、これは握手を求める手…ということでいいのだろうか。
おそるおそる轟くんの手を握る。
「たまたま…爆豪くんが強かったから。」
「ンなことねえ、すごかったのはお前だ。」
「ア゛!?このクソモブ女のどこがすげぇんだよ!!!」
ああ、なんだってわたしはこんなにも爆豪くんの怒りを買ってしまったのだろうか。わたしが何をしたというんだ?
「気にすんな、こいついつもこうだから。」
「そ、そうなんだ」
ぎゃんぎゃんと爆豪くんの怒鳴り声を聞きながら、思っていたことを口にする。
「あの…」
「どうした」
「手……離して…」
ああ、とそういえば握ってたっけ、とでもいうように握る手を一瞥すると、轟くんの冷たい右手が離れる。
もしかして、轟くんって…天然、なのかな。