第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
「…っぶねぇ」
けれど直ぐにそれに気がついて跡部くんが私の傍まで駆け寄ってくれた。
跡部くんに肩を掴まれてしまい、また私の中でさらなる混乱が生じる羽目になってしまう。
「な、なんで」
「あ?」
だから私は自然と跡部くんに疑問を投げかけていた。
「なんでそんな急に優しいの?」
「は?そうか?」
私の質問に対して跡部くんは不思議そうに首を軽くかしげた。
彼からしたら、きっと何時も通りの行動だと言いたいのだろう。
でも私は先程の件も含めてそんな気は全くしなかった。
「そ、そうだよ。昨日から跡部くん…どうしちゃったの?」
「別に俺はいつも通りだろ」
「そんな事無いよ。だって私の事、嫌いでしょ?」
私はずっと思っていた事を口にした。
正直好かれている気は全くしていなかった。
だって毎度毎度自分に一方的に突っかかってくる人物なんて正直煩わしいと思っていてもおかしくないはずだ。
それでも生徒会選挙で生徒会長戦に負けた私に対して欠員が出たからと生徒会に誘ってきた当時は驚きもしたけれど。
ただ彼は効率の良さや適材適所を求める部分があるから嫌いだと思った相手でも気にせず使える人物は使っているのだろうと私は思っていた。
だから私は跡部くんに好かれているだなんて微塵も感じていなかったので、昨日からあまりに私を女性扱いしてくる彼に驚きっぱなしなのだ。
普段はこんな風に扱われた事が無かったから私もどうも本調子でないんだと今日の自身の腑抜け具合にも今この場で内心納得していたのに…。
それなのに跡部くんの口から出た言葉は私を驚愕させるには十分だった。
「別に俺はお前のこと好きだけどな」
「え……?えぇ!?」
私は驚きのあまり、先程手にした書類の束を全て落としてしまった。
バサバサバサと生徒会室の床に落ちて散乱する書類を見て私は慌ててしゃがんでそれらを拾う。
いつの間にか跡部くんもしゃがんでそれらを拾ってくれた様で私に差し出してくれた。