第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
「何?」
「お前、今日生徒会の仕事あるの忘れてるだろ」
俺の言葉に【名字】は『あ』と小さく声をあげる。
それを見て俺はニヤリと笑ってみせた。
「慈郎と寝入ってて忘れるとからしくねぇな?あぁん?」
俺がそう告げると心底屈辱的な表情へと変貌していく【名字】の表情に笑う。
好きだからこそ色々な表情を見たいと思うなんて俺もヤキが回ったなと思った。
「わ、忘れてないわよ」
「どうだかな」
「鞄取りに行く所だっただけ」
取り繕う様にそう告げる【名字】に笑ってやると『笑わないでよ!』と言い返されるが、そんな事知ったこっちゃねぇと思った。
何時も通りの言い合いに心地よさも感じながら俺は『鞄は後で樺地に取りに行かせるから付いてこい』と告げると嫌そうな表情をしてから【名字】は俺のあとをついてきた。
それが何だか面白くて気付かれない様に俺は口角をあげたのだった。
***
失態だったと思った。
あまりに本調子でなくて生徒会の仕事が今日はあった事を忘れて本を読み耽るだなんて…。
しかも最後まで熟読出来ていたのならまだいい。
心地の良い風と暖かい陽気がとても昼寝日和で私はついつい気を張らずにいてしまったのだ。
いつもなら気をつけているのに慈郎くんの和ませる空気に当てられたのだろう。
すっかり一緒になって寝入ってしまっていた。
そして、私を呼ぶ声がして驚いて起きれば額に走る衝撃に驚いて咄嗟に瞑ってしまった目をあければそこに飛び込んできたのは成端な顔立ちの跡部くんで驚いた。
あんなに至近距離になったことなんて初めてで驚いてしまった。
流石、氷帝学園の女生徒に絶大な人気を誇る人物である。
至近距離で見れば見るほど、整った顔立ちが際立ってわかった。
普段は言い争いになる事の方が多くて彼の顔の良さなんて気にも止めていなかった。
けれどもあんな風に間近で見てしまえば流石に私も彼の顔の良さに驚くしか無いわけで…きっと、整った顔を見たせいだと私は鳴り止まない胸の鼓動に対する理由をつけた。