第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
「おい!【名字】!」
「は、はい!!」
今度は大声を出したのが良かったのか勢いよく【名字】は目を覚ました。
ただ大声を出した事で相当驚いたのか勢いよく前に飛び起きられて、顔を覗き込む様にしていた俺の額に思いっきりぶつかられる。
互いに物凄い音がしてぶつかりあった額に痛みが滲む。
「お前なぁ」
「痛い…なんで、跡部くんが……」
寝起きで混乱している様で要領を得ない返事しか返ってこない。
けれど額が相当痛かったのか手で抑えたままで一向に離しはしなかった。
そこまで石頭のつもりは無かったが何処か怪我させたかと思い、【名字】の手をどかして俺の手で触れる。
特に腫れてる様ではなくて安堵する。
「あ、あの跡部くん?」
俺が1人で安堵していると困惑している【名字】と目が合う。
今まで見たどれでもない瞳の色をしていた。
それが新鮮で俺は一瞬呆けてしまったが、直ぐ様正気に戻る。
「あぁ悪い」
流石に勝手に額を触れたのは悪かったと思い、手を額から離してから素直に謝罪を述べれば更に表情が困惑していく【名字】がいた。
俺が謝るのがそんなに珍しいのか?と思った。
「なんだその表情」
「…跡部くんにそんな態度取られたのか初めてな気がして」
「そうか?」
【名字】にそう言われて思案する。
確かに俺と【名字】はあまり普通の会話をした事が無かったなと思い出す。
別に俺は気にもしてなかった。
むしろ今まで俺を正面からライバル視して何度も挑戦してくる奴は新鮮なので見てて面白いとは思っていた。
部活動での後輩にあたる日吉も似たような部分はあるがあいつの場合は性格的に態度に出すことはあまりない。
でも【名字】は喜怒哀楽が激しいのか見ているだけで感情が読み取れるので単純なやつだなと思いつつも、あまりに反応が面白いから黙っていた。
氷帝に入学してから【名字】とは何度も主に試験の点数で争ったし、生徒会選挙も生徒会長として争った事もある。