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【短編集】テニスの王子様

第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】


「……はぁ」

あいつの行きそうな場所にあたりはつけていたが、まさか俺の読みを少しだけ外して最後に確認しに来た場所にいるとは思いもよらず俺は呆れたため息をつく。
こんな中庭でまさか生徒会の仕事も忘れて本を読み途中で寝ているなんて珍しいこともあるものだと思った。
しかも隣には慈郎もいて、はたから見れば仲睦まじい2人が寄り添って寝ているという状態だ。
その距離の近さに若干の嫉妬を自身の中で感じて苛立つ。
そんな思いを抱いしてしまった自身に俺らしくなくて更に苛立ちは募った。

「おい」

声をかけて揺さぶるが起きる気配は2人揃ってない。
慈郎の方を先に起こそうかとも考えたがこっちは普通にしてても起きるわけねぇなといつもの事を思い出す。
そんな当たり前の事すら一瞬忘れられるのだから本当にらしくなくて俺はため息をついた。

「樺地」
「ウス」

樺地を呼べば直ぐ近くに待機していた様で傍まで歩いてくる。

「慈郎のやつをいつも通り部室にでも運んでおけ」
「ウス」

俺の指示を聞いて慣れた手付きで樺地は慈郎を抱えて部室に向けて歩き出す。
その背中を見送ってから、こいつをどうしたもんかと考える。
考えながらこいつの目の前にしゃがみ込み、ジッと寝顔を見つめた。
普段はキリッとした表情で俺と会話するところしか見たことがなかったから、こんな風に少し幼い顔つきを見たのは初めてだなと思った。

そしていつもの強い意志が込められた瞳が閉じられている事に違和感を覚えた。
こいつのその瞳で射抜かれる事は嫌いではなかったなと、ふと思い出す。
こいつの瞳は複雑な感情が入り乱れた瞳だと思っていた。

好意、媚、嫌悪…分かりやすい瞳の色は見てきた事はたくさんあったが、こいつの様に様々な色が混じり合った瞳は初めて見たような気がした。
だから初めは好奇心からだった。
その瞳に映る色に興味があった。
今ではその瞳に彩られる自身の姿を見ることが楽しみになっていたと気付いたのは先程だなんて、らしくなさすぎて俺はため息を改めてつく。
それから、いつまでも【名字】をここで寝かしておくわけにもいかず俺は再度大きな声で揺さぶる事を試みる。
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