第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
なんでバルコニーに連れ出したのかと言われてしまえば分からなかった。
祖父に急用が出来て急遽、参加することになったパーティーに参加をすれば1番初めに目に飛び込んできたのは鮮やかなドレスで着飾った【名字】だった。
俺らしくもなく一瞬だけ視線を奪われる。
その事に自身でも驚いた。
色鮮やかなドレスは下品ではなく、鮮やかな色合だけれど【名字】に似合う色味。
そして普段はおろしている髪がドレスに合うようにアップにされ、華やかになるように多少のアレンジがされており、ドレスに似合う小物も飾り付けられていた。
中学生でも付けていておかしくない品のあるネックレスが首元でキラリと輝いている。
同じ年代のものがほぼいない会場なのもあったが、俺からしてみれば誰よりも綺麗で輝いて見えた。
実際に自分の近くにいた人物らが『【名字】家のご息女はとても綺麗ですな』という様な会話も聞こえてきていた。
なんだか【名字】を値踏みするような大人たちの視線に苛立ちを覚える。
適当にパーティー主催者や祖父の交友関係の相手等を中心に挨拶回りをしてから、再度会場を見渡せば彼女の父親と一緒に【名字】はまだ会場にいた。
内心安堵してから彼女らの方へと足を向ける。
俺が笑顔で挨拶をすれば、彼女の父親と、またその会話相手は俺を見てにっこりと愛想よい笑みを向けた。
どことなく【名字】の父親は彼女に似ているなと頭の片隅で思う。
ふと【名字】の方へ目線を向ければ、驚いた表情で俺を見ていた。
俺がこの場にいるのが余程驚いたのだろう。
先程までの品の良い、よそゆきの表情から俺のよく知る学園での表情へ変貌していき面白いなと思った。
そこからの俺は颯爽とあいつをバルコニーへと連れ出して会話をした。
理由は分からないけど触れたいと思ったから髪に触れてみれば【名字】は驚いた表情で俺を見上げていた。
その表情を見て、そんな顔も出来たのだなとふと思った。
そしてその表情を誰にも見せたくないなんて思って車であいつの家の前まで送れば珍しく丁寧にお礼を言われた。
そういう所はこいつの育ちの良さを実感させられた。
「どうもありがとう」
「あぁ」
車の外から俺の方を見る【名字】をジッと見ていれば不思議そうにあいつは俺を見ていた。