第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
「岳人がたまに【名前】の事を話してる時に何かそんな表情してる気がするCぃ、なーんか、纏ってる空気?が違うと思うんだよねぇ」
なんて慈郎くんは言いながら『アハハ』と笑う。
お世辞でもなく、純粋にそう発言している彼の表情を見て私は何も言えなくなってしまう。
跡部くんが私の事になると雰囲気が変わると言うことなのだろうか?
そんな事があるの…?と私は今までの彼とのやり取りを思い出してみたけれども、私が一方的に突っかかってばかりいて、慈郎くんの言うような表情をしていただろうか?
いくら思い出してみても慈郎くんの言うような表情を見たことがなくて彼に質問してみようと顔をそちらに向けると、慈郎の瞳は閉じていた。
というか、いつの間にか私の隣で寝ていた様で、肩に寄りかかられていた。
なんで気付かなかったのだろうかと自身に驚いてしまう。
「……慈郎くん?」
念のために声をかけてみたが、彼は起きる気配は全く無かった。
頑張って起こす事に挑戦してみようかとも思ったけれど、普段の様子からしてそれはかなり難しいだろうとも思う。
それに気持ちよさそうに寝ている彼を起こしてしまうのも忍びなくて私は少しの間なら大丈夫かな?と思い、再度読書を再開させた。
跡部くんの言葉が頭の片隅で引っかかったままだったけれど、今はそれを忘れるために必死に本の中の世界へと意識を集中させたのだった――。
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