第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
「似合ってる」
驚いたまま私が固まっていると、さらりとそう述べてから私の髪を跡部くんが撫でる。
それに更に驚いてしまう。
顔をあげて跡部くんを見上げれば彼は真剣な眼差して私を見ていた。
その表情にドキリと心臓が跳ねる。
ドキドキと鳴り出してしまった心臓が煩くて仕方がない。
なんで、こんなにも私は跡部くんにドキドキしているのだろうか……。
どうして――なんて私の焦りをよそに、跡部くんは自然に私の髪を撫でていた手をスルリと離して、何事も無かったかのように何時も通りの口調で彼は私に告げた。
「送ってくから乗ってけ」
「え、で、でも」
「お前の親にはきちんと連絡をつけておく」
そう言われて私はまたもや強引に跡部くんによって車へと連行されてしまったのだった――。
***
「……ねぇ、芥川くんはどう思う?」
「慈郎だってば!」
「……慈郎くんはどう思う?」
「うーん。どうだろね」
アハハなんて笑いながら、いつもの眠そうな表情からは想像もつかない程にハイテンションの彼は私の目の前で笑ってみせた。
彼とは向日くんや宍戸くんと同じく幼稚舎の時からの付き合いだから、比較的に話しやすい人物であった。
幼い頃は性別も気にせずに皆仲良くしていたが、流石にこの歳になってくるとある程度の線引も必要かと思って名字呼びをすれば彼はそれがお気に召さなかった様だった。
そういう別け隔てなく普通に誰とでも接する事が出来るのは慈郎くんのいいところだなと思う。