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【短編集】テニスの王子様

第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】


もしかしたら裏では私の事も父の事も好き勝手言うような人かもしれないので用心深く観察する。
少しでも気を張っていなければいけないこの大人たちの空間が好きではなかった。
それでも【名字】家に生まれた身としては私は少しの隙を見せないようにしなければいけない。
もう昔の様に他の親族や関係のない大人たちに両親の悪口を言われないようにしっかりしなければと心に誓ったのだから。

「こんばんは。お話中失礼します」

心の中で私が己に誓いを立てていると聞いたことのある声がその場に響く。
私は嫌な予感がしたままに、ゆっくりと声のする方へと顔を向けるとそこにはよく見知った人物が正装をして立っていた。

「――っ」

この様な場にいるのに――私と同い年なのに、隙も油断も微塵も感じられない程の人物。
思った通り、跡部くんがそこには立っていた。
私が驚いた表情のままで固まってしまっていると父の話相手の方が彼にうやうやしく挨拶をする。
その後に続き、父も挨拶をしたので私も一緒に会釈をしたけれど、私はどうしてこの場に跡部くんがいるのだろうかと内心それどころではなかった。

どうして、何故この場に彼が?と疑問に思えば思う程私は内心パニックに陥る。
冷静に考えれば彼の家柄等を考えれば何の不思議もないはずなのに、私は驚きすぎて今は冷静な判断が出来なくなっていた。
そんな私をよそに3人は談笑を続けていく――。

「不躾で申し訳ないのですがご息女をお借りしても宜しいですか?同年代の方がいませんので良ければお話がしたいなと」
「あぁ、勿論ですとも。そもそも跡部くんとは同級生なのだしね。【名前】、ここは構わないから」

私が1人で内心悶々と考え込んでいると急に自分に話を振られて驚いて隣にいる父を見れば私を見て微笑んで頷く。
そして視線を私から跡部くんに動かした事で、先程断片的にしか聞いていなかった会話内容をなんとなく察すると同時に心の中で『物凄く構います!』と突っ込みを入れては見ても伝わるわけもなく、私は跡部くんに引きづられるようにバルコニーへと連行されたのだった。
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