• テキストサイズ

【短編集】テニスの王子様

第4章 Secret feeling 【白石蔵ノ介】


恥ずかしくて俯いてしもうたが、そんな私を特に気にも止めずに白石くんは歩き出す。
隣を歩きながら思ったのは先程まであないにも寒く思っとったのに今ではとても暑くてどうにかなってしまいそうやなという感情だけやった。

こんな風に優しくて穏やかな時間を過ごすこと数ヶ月。
落ち込んでいた失恋という痛みはもう徐々に消えかかっとった。
包み込む様な白石くんの優しさで私はもうその痛みから開放されつつあったのだ。

チラリと覗き見る白石くんは楽しそうに微笑んで今日の出来事を話してくれる。
その心地のええ声音に私は耳を傾けながら一緒に歩く。

せやけど私の胸の痛みは消えつつあっても何処か拭いきれへん不安がジワジワと自身をまだ蝕んでいた。
それはきっと……彼の隣に並ぶのに相応しい女の子やないからだ。
なんで白石くんはこないにも優しいのだろうか…と思いつつも彼から離れられへん私はズルい人間だなとコッソリとため息をついた。
その私のため息を白石くんが気付いとるとも知らずに私はただただ憂鬱な気持ちで彼の隣を歩いとったのやった――。

***

「で…どうやの?」
「え?」

久しぶりに休日の予定があったので、【夢主友名前】ちゃんと今日は遊びに出とった。
最近近くに女の子の間で人気のあった喫茶店へと入り注文したものがテーブルに届くと彼女は自身の飲み物のマドラーをグルグルとグラスの中で回転させながら私へ質問を投げかける。
何に対しての、どうやの?と聞かれたのか分からん私はキョトンとした表情のままやったので、質問の意図が伝わってへんと気付いた彼女は私に『白石くんと』と付け加えてくれた。

「どう…って。とても優しくて素敵な人やで」

私が素直に答えると彼女は少し考え込む仕草をして、少し言いにくそうな表情をしてから意を決した様な表情へと変化してから私に質問を再度投げる。

「…【名前】はさ、謙也の事はもうええの?」

その言葉は、私の胸にズキリと突き刺さる。
今まで白石くんの優しさに甘えてきちんと気持ちの整理をしてこなかった事へのしっぺ返しがきたかの様な気分になっていった。
/ 76ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp