第3章 不器用な人 【財前光】
「あー…その…ありがとうございます?」
「気ぃ、使わんでええよ」
先輩の投げやりな声がくぐもって聞こえてくる。
このまま多分顔をあげる気なんてないのやろう。
言うつもりは無かったと言う事は、彼女自身告白する気なんて多分無かったのだ。
それでもこの場の空気に飲まれて思わず口にしてしまったという所だろうか?
ちゃんとした雰囲気のええ告白でもないのに、やっぱり好きな人から好きだと告げられると口元が勝手に緩むのを感じた。
「先輩」
「……」
「【名前】」
「え」
俺が突然名前で呼ぶから驚いて先輩が俯いとった顔をあげる。
先輩を覗き込むようにしとったのも悪いけど、思ったより彼女と自分の顔の位置が近くて自分でその場にいた癖に勝手に驚いた。
先輩自身も俺が思ったより近くにいた事に驚いたのか凄く狼狽えとった。
「いや、その、俺も先輩の事好きなんっすけど」
「………嘘だぁ」
少しの間の後で先輩が俺の言葉を信じられへんと言いたげな声と表情で俺を見る。
その態度にムカついてグイッと先輩の頬に手を添えて固定してやった。
俺の反応は予想外やったようで呆けた表情の先輩と目が合う。
そのままジッと目を見つめてから俺はなるべく落ち着いたトーンで告げる。
「嘘やないです」
俺もやけくそになってはっきりと言ってやった。
自分のキャラやないなと思ったが恋にうかされたやつなんてこないなもんやろとも思った。
そのやけくそな気持ちのままに、唇の横に口づけしてみれば、先輩の目は大きく開かれる。
おもろい表情だなと再度思った。
その間抜けな表情すら愛しいと思ってしまうなんて本当恋なんてするもんやないと改めて思った。
「好きやってわかりました?」
「……はい」
俺がもっかい聞きなおすと顔を真っ赤にした先輩が間をおいて返事をする。
それに満足して俺は先輩の頬から手を離した。