第3章 不器用な人 【財前光】
部室に妙な間が流れる。
互いに何とも言われへん空気が漂っとった。
そないな中、最初に口を開いたのは先輩の方やった。
真剣な眼差しで俺を見つめる瞳から目が離せないなと思った。
「その……私、財前の事が…すきゃ――」
告白を改めてしようとしてくれたのは伝わったけど、ちゃんと言わなければいけない場面で噛んだなと思ったら、自然と笑いが漏れてしもた。
俺が肩を震わせて笑うから先輩がぷるぷると顔を真っ赤にして震えとった。
彼女自身も大事な所でまさか噛むとは思わなかったのだろう。
そして自分が泣けばええのか笑えばええのか分からなくなって来とるのやろうなと思った。
手先だけでなく普通に不器用な人なんだなと再認識すると、そないな所もええななんて思ってしまうからほんまに始末におえない。
「ほんまにどうしようもない人っすね」
なんて俺が笑いながら言うと「うっさい!」と返される。
せやけど先輩の顔は嬉しそうにわろていて俺はその表情好きやなと思ったのやった。
Fin.