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【短編集】テニスの王子様

第2章 片想い☆クライシス 【忍足謙也】


「引かへんよ」

そう言う忍足くんはとても真剣な表情で私を見据えていた。
その真剣な眼差しに私の胸がドキドキと早鐘の様に鳴る。
忍足くんの真剣な眼差しはいつもの年相応の笑顔とは違って、少しだけ大人びていて私の知っている彼ではない様に見えた。
その少し大人びた表情がとても格好良くて私は直視出来なくて俯いてしまう。

「……おおきに」

俯いたままそう返事を返す。
羞恥心で上手い返事も返せず、一言だけしか返せなかった。
しかも拍子抜けしたせいなのか、ストンとその場にへたり込みそうになって慌てて忍足くんが抱きとめてくれた。

ただ、抱きとめてくれた事で腰に手が回っていて、まるで社交ダンスでも踊りそうな体勢になってしまい更に恥ずかしい。
さっきよりも顔が熱くなっていくのが分かった。
羞恥心で死んでしまいそうと思い、自分でちゃんと立つために力を入れようと試みたが上手く体に力が入らない。
足に力を入れようと何度も踏ん張ってみても上手く地面に対して足に力を入れられず、今の私は体の殆どを忍足くんに支えてもらっている状態だった。

「ごめんね。上手く立てなくて。その…ホッとしたら力抜けちゃったみたいで…」
「かまへんよ。それより…ちゃんと顔見てもええか?」

忍足くんの言葉に驚いた。
その要望に答えるのなら私は今、顔をあげなければいけない。

「今の私…不細工過ぎるから勘弁して」

でもさっきまで泣いていて目も充血してるか腫れているはずだし、ただでさえ整った顔立ちをしているわけではないから余計にそんな綺麗でもない顔を好きな相手に見られるのが嫌で私は忍足くんに懇願した。

「…そんなことないで」

けど返ってきた返事は驚くもので、いつの間にか下から私の顔を覗き込む様な体勢になっていた忍足くんと少しだけ目があう。
驚いて顔をあげれば、やっと見てくれたなって言いながら笑っている忍足くんと目が合う。
その明るい笑顔に胸が張り裂けてしまいそうだ。

「忍足くん…ずるい」
「ずるくないで」

笑いながら否定する忍足くんを見て私はかなわないなと苦笑する。
すると「その笑顔、好きやで」と照れくさそうに忍足くんが言いながら、さっきよりも更に私へ顔を近づけてくる。
私と忍足くんの顔――と言うより、唇の距離が段々と近付いていく。

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