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【短編集】テニスの王子様

第2章 片想い☆クライシス 【忍足謙也】


「…俺の事を見たくないならそのままでええから、聞いてくれへんか」

忍足くんの切実な声音に私は驚いて逃げることを辞めた。
ジッとその場に立ち止まると、私が逃げる事を諦めたのが分かったのかホッと安堵した忍足くんの吐息が聞こえた。

「何から話したらええかな…」

そう言ってからも暫く沈黙が私達の間に流れる。
チラッと振り向ったら、忍足くんは何から話してええか分からん様であぁでもないこうでもないと言うたような表情をしとった。
このままじゃきっといつまでも話が進まへんなと思った。

「あ、あのね」

意を決して先に話し始めようと思った。
忍足くんにもうドン引きされとるなら先に話しきってしまおう。
バレンタインの時に緊張し過ぎて伝えきれなかった想いをみな伝えてしまおうと…そう思った。

本当はちゃんと忍足くんを見て話した方が良いのは分かっていた。
せやけど、今の私にその勇気は無かったさかい、腕は忍足くんに掴まれたままで後ろ向きに俯いて話し始めた。

「私、ずっと…ずっと好いとったの。覚えてへんと思うけど1年の時にね、忍足くんが助けてくれた時から」

きっともう覚えてへんと思う。
あの1年の時の些細な出来事なんて。

先生に頼まれて山積みになったノートを持って廊下を歩いとった私に、向かいから走ってきた男子がぶつかりノートを廊下にばら撒いてしもた時や。
『すまん』なんて言ってその男子は廊下を駆けて行ってしまって私は唖然とした。
自分の周りに散らばってしもたノートを私が途方に暮れながら拾っとると『大丈夫か?』と声がして顔をあげる。
『すまんな、俺らが廊下で遊んでたから』
なんて言って声をかけてくれた男子がノートを颯爽と拾って私に渡してくれる。
『おおきに』
『俺らのせいやから気にせんといて』
そう言って笑うと彼は凄まじいスピードで廊下を駆けていった。

「あの時ね、めちゃくちゃええ人だって思ったの。ほんで目で追うようになって」

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