第2章 片想い☆クライシス 【忍足謙也】
「ち、ちゃうんよ。えっと多少は違わなくもないんやけど」
私は狼狽えて何を言っとるか自分でも分からなくなってきよった。
混乱してうまく言葉がまとまらへん。
私を見る忍足くんの表情が実は内心引いてるんやないかと被害妄想まで出てきて、私はどんどん居たたまれなくなってきて「ごめん!」と叫んで逃げ出した。
この場にいたくなくて出てきた結論が逃げるとか幼稚過ぎて我ながら呆れるが今はこの場を離れたくて仕方がなかったのやった。
***
「ごめん」
そう叫んで【名前】は俺の目の前から逃走した。
普段ならすぐに追いかけられるし、それに追いついて捕まえる自信もあったが今起きた出来事に呆気に取られてその場をすぐに動くことが出来へんかった。
最後の方に混乱して顔を真っ赤にして涙目で必死に言葉を取り繕うとした【名前】が、前に自分に告白してきてくれた時のようで俺の心臓がドキリと跳ねた。
正直、あないな風に慌ててる姿はえろう可愛いなんて思ってしもた。
そんな事を考えたら走り出した【名前】を追いかける事が出来へんかったのやった。
「あぁ…いじりすぎたな」
その言葉で我に返る。
俺の目の前では少しだけ反省したかのような表情で【名前】の兄が「堪忍な」と俺にそう告げた。
「い、いえ」
どう返事していいか分からず、とりあえず否定だけしておく。
そして、失礼なことを承知でジロジロと目の前におる人物を見てしまう。
【名前】は兄と呼んでいたが、正直あまり似てへなんやら思ってしもた。
彼女は派手な外見はしておらへんが笑うとめっさ可愛らしい女の子やった。
せやけど俺の今目の前におる人は一瞬で目を奪われてしまう人の方が多いであろう派手な整っとる顔立ちをしとった。
紹介でもされへん限り、一瞬で兄妹とわかるやつの方が少ないやろう。