第2章 片想い☆クライシス 【忍足謙也】
「わかっとると思うけどな、【名字】さんええ子やしうかうかしてると他の奴に持ってかれるんやないか?」
「それは…」
白石の言う通りやった。
頭では分かっとった。しゃんとすべきやと。
それでも昔の事を思うと踏み出せんとおった。
何とも情けへんと思うとっても切っ掛けも作れず現状維持のままやった。
「あら?」
「なんや小春?どないしたん?」
「あそこ…」
小春の声で皆が一斉に小春の指差す方を見る。
人混みの中に誰かがいるとでもいうのだろうか?
「さっき話してた【名字】さんやないの?たまに練習見に来てるやろ?」
確かに小春の言う通り、【名前】は練習をたまに見に来とった。
俺と【名前】がフェンス越しに会話しとったのを小春は覚えとったのやろう。
「てかあれ、【名字】さんっていうのが本当ならやばいんとちゃいます?」
「なんでや?」
「いや…まぁ、せやな。謙也、言いづらいけどな、あれどう見ても隣におる男と話しとるわ」
「はぁ!?」
財前と白石の言葉に俺は驚きの声をあげて目を凝らす。
確かに皆の言う通り【名前】と思わしき人物が隣におる男と笑いながら話しとった。
私服かわええなとか一瞬、現実逃避しかけた。
だがすぐに先程言われた白石の言葉が脳内でこだました。
『うかうかしてると他の奴に持ってかれるんやないか?』と。
そんなん嫌や。
そう思うと俺は全力でその場から走り出しとった。
後ろから小春の黄色い悲鳴が聞こえたが声援と思っておくことにした。
俺はいつも以上のスピードで走り出したのやった――。
***
「はぁ、やっと決まったん?」
「しゃあないやんか。ええやつを選びたかったんやし」
スポーツ店から出てからお兄ちゃんがいちゃもんを言うので反論する。
今日は先日のお兄ちゃん絡みでめんどくさい目にあった出来事の埋め合わせてとして、お兄ちゃんと一緒にスポーツ店に買い物に来とった。
リストバンドをプレゼントするぐらい友達としておかしくないよね?と自分に言い訳をしつつ、また男子の趣味が私にはわかりかねとったさかい先日のお詫びも兼ねてお兄ちゃんに買い物を付き合わせた。
忍足くん受け取ってくれるとええんやけど…。
「なんや、また謙也くんかいな」
「なっ――」