第5章 ◆涙と語らい ★★★☆☆
主と山姥切と何かあったわけではないという安堵でいっぱいになり、俺は思わず彼女の両手を握った。
「主に力をお貸しできて光栄です」
主の手こそ、温かくて優しさを感じられる手だと思う。でもそれだけじゃない。柔らかくて、しなやかで、滑らかで…。握っているだけで、胸がいっぱいになる。
「あの、主」
「はい」
「主は…優しく、女性らしくて…それに、とても美しいと思います。俺は近侍の立場でありながら、いけないとは思いつつ…いつも見惚れておりました。 ……もっと触れたい、と。 ……ずっと、そう思っていました」
伝えた。伝えてしまった。
「長谷部さん……」
許されることではないのに、やはり俺は勘違いをしているようだ。夜伽のせいで主の特別になれた気がしている。
手を握ったまま、俺は下を向いた。
主の反応が怖い。どんなお顔をしているだろう。
困らせただろうか。触れたいなどと正直に言い過ぎだ。もっと控えめな言い方があっただろう。主を失望させてしまったかもしれない。
ああ、何か言ってください、主…!
「………あの、長谷部さん」
「……は、はいっ……」
「嬉しいです。でも、そんなに褒められると照れちゃいますよ」
「え?」
「手のお話、ですよね?」
いや、違う、そうじゃない…!
「……あ、はい……そうです。主の、手の、話です……」
「そ、そうですよね! ビックリしました…!」
慌てながら安堵する主の反応に胸が痛みつつ、助かった、と胸を撫で下ろした。
やはり正直には言えない。主を困らせるだけだ。
「でも、私が触れてもお嫌でないなら良かったです。夜伽をするときは長谷部さんにたくさん触れるので、不快に思われていたらどうしようと心配していました」
「まさか! 不快になど! む、むしろ、その……………とても心地良い、です」
「本当ですか!? 私も…! 長谷部さんに触れられると、とても気持ち良いです!」
手の話だということは分かっているのに、互いの言葉がそれ以上に感じてしまう。
いや、俺は「手の話」だと銘打っていれば何を言っても言い訳ができると気持ちが大きくなっている。
本当はもっと伝えたい。主が好きだ。
可愛らしい貴女に、俺はいつも欲情している。知られることが怖いはずなのに、本当は貴女との関係を一歩でも前へ進めたい。