第1章 ◆夜伽の通達 ★☆☆☆☆
「長谷部さん…」
彼女はなぜか涙目になっており、長谷部はすぐに掴んでいた肩を離した。
彼女が泣いているところを見たことがなかった長谷部は、取り乱すとともに、わずかな胸の高鳴りを感じていた。
「も、申し訳ありません主! 痛かったでしょうか…」
「いえ、違うんです。…長谷部さん、これを見ていただけますか」
彼女は懐から、通達の紙を出した。
それは最新号であり、今日の朝届いたと思われるもの。
長谷部は渡された紙を広げ、すぐに目を通した。
『審神者 各位
昨今、一部本丸にて審神者の力が弱まりつつある。魂の強化のため、近侍に指名した刀剣男士から付喪神の御霊を得よ。
御霊は魂の触れ合い、すなわち夜伽にて享受できる。詳しい手順は追って今夜通達する』
長谷部は固まり、その様子を見ていた主は目を泳がせながら、組んだ手をモジモジと動かしている。
「……………あの、夜伽、とは…」
長谷部の言葉に、彼女もピクリと体を揺らした。
審神者の力を強めるため、神である刀剣男士の力を分けてもらう。それは二人とも理解でき、納得できた。
……それが何の前触れもなく、『夜伽』と。
「…困らせてしまいましたよね…」
真っ赤な顔で瞳を潤ませている主。
そんな彼女を前に、長谷部は考えを巡らせていた。
「主、いえ、そのっ……」
困る、困らないの問題ではなかった。
政府の通達で、主との夜伽を命じられるなど、長谷部にとっては妄想の延長ではないかと思うほどの展開だ。