第5章 ◆涙と語らい ★★★☆☆
──主は頬を赤らめながら、必死に言葉を紡ぎ始めた。
「私、あの…」
今夜の指示は、まさに俺の知りたかったこと。
どんなに触れ合っていても、主の本当のお心が見えなかった。
「主…」
聞きたい。
俺のことをどう思っていますか。本当は夜伽のとき、お嫌ではありませんか。昨日から、俺を避けていたのは何故ですか。
「わ、私、実は…」
「はいっ…」
「すごく好きなんです。長谷部さん……の、手が」
………え?
「手…ですか?」
「あっ…あの、ごめんなさい、違くてっ…い、いえ、違くないですね、すごく好きです、長谷部さんの手…」
俺は無意識に自分の右手を持ち上げていた。
主は相変わらず真っ赤なお顔のまま、目が泳いでいる。
「長谷部さんと初めてお会いしたとき、とてもきっちりとした人で、厳しそうで、少し怖かったんです。私が握手をしようとして手を出したとき、差し出された手も指先までしっかり整っていて…。でも、握ってくださったとき、とても温かくて、優しかったんです。それと同じで、長谷部さんも、厳しいけどとても優しいい人だと分かって…。だから、私、すごく好きなんです」
「主…」
…まずい。こんなふうに好きと言われると、嬉しくて勘違いしそうになる。
主から、好きと言われたことはなかった。無論、俺も言ったことはない。
分かっている、手の話だ。俺自身のことじゃない。