第5章 ◆涙と語らい ★★★☆☆
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今までにないほど酷い目覚めだ。
昨夜は初めて、主を泣かせてしまった。
最悪だ…。
彼女を泣かせる輩など絶対に近づけまいとしていたのに、まさか自分がその元凶になろうとは…。
主の涙が頭から離れず、俺はほとんど眠ることができなかった。
いつも笑顔を向けてくれる彼女の涙を思い出すと、俺の胸はキリキリと締め上げられる。
俺の身勝手な嫉妬で、彼女に不快なことを言ったせいだ。真面目な主は心を痛めたはず。
それに…
『長谷部さんを近侍に選んでしまって申し訳ありませんでした』
ついにそう言われてしまった。
主の近侍となれたことは俺にとっての一番の幸福だったのに、主を幻滅させてしまったせいで、あんなことを…
でもダメだ、諦めきれない。なんとか許していただきたい。
これから、挽回する機会を与えてはもらえないだろうか。
とにかく、朝一番で謝罪をしなければ。
「…主。中におられますか」
彼女の部屋へ出向き、障子の外から声をかけた。
中にいる気配はある。
…まさか、まだ泣いていらっしゃるのだろうか。
いつも笑顔で返事をして下さるのに…
「長谷部さんですか?」
主!
「はい。入ってもよろしいでしょうか?」
襟を正して障子に手をかけたが、それは俺が開けるよりも先に、中にいた主によって開かれた。
「もちろんです! おはようございます、長谷部さん」
戸を開けて下さった主は、いつもと変わらぬ笑顔で出迎えてくれた。