第1章 ◆夜伽の通達 ★☆☆☆☆
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長谷部は自室に戻り、戸を閉めた。
机には先程まで編成について考え、色々と書きなぐった紙の残骸が積もっている。
主が編成について考えていると言ったから、自分も力になりたくて考えていたのだ。
すっかり立派になった主には余計なお世話かもしれないと思いながらも、考えついた提案をしに行ったら、快く受け入れてくれて、感謝をしてもらえた。
(それだけで胸がいっぱいなのに、まさか、あんな…)
─『私が一番信頼しているのは、長谷部さんですから』─
(あんなことを、言って下さるなんてっ……)
長谷部は胸を押さえ、キュンと痛む心臓の鼓動を感じていた。
…これは主に対して持って良い感情ではない。
彼はそう思って何度も打ち消そうとしたけれど、抑えつけるたびに燃え上がっていく感情に、もう抗えなかった。
この本丸に選ばれ、彼女の刀となった。
それは運命だが、最初は運命など偶然に過ぎないと思っていた。
この運命を与えられたなら、それに従えばいい。
戦いの経験などない彼女の役に立ち、自分の役目を全うする、それは審神者が誰であろうと同じこと。
(でも……)
彼女のひたむきな姿、自分に向けられるあたたかい笑顔、素直な心。
いつだったか、この胸の甘い痛みに気づいたときには、積もっていく彼女への想いが溢れだしそうになっていた。
ついには『彼女を自分のものにできたら』なんて許されない想像を頭に浮かべるようになり、自分の愚かさに絶句するほど。
「主…」
今日も彼女の言葉を一語一句思い出しながら、その心地よい海に溺れていく。
─『長谷部さんがいなかったら、私はきっと…』─
(ああ、あの言葉の次は、なんと言おうとしたのだろう。お止めせずに聞いておけばよかった…)
─『長谷部さんがいなかったら、私はきっと…』─
─『長谷部さん』─
─『長谷部さん、お願いです。私を…』─
─『私を抱いてください』─
「…!?」
長谷部はいつの間にか閉じていた目を開けた。
いけない想像は、日に日にエスカレートしていく。
ありもしない空想の言葉を、欲望のままに彼女に言わせてしまう。
それをするたびに自分が嫌になりながらも、想像の中の彼女はやめてはくれない。
熱くなる胸を抑えながら、長谷部はもて余した欲望とともに、眠ったのだった。